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第三者意見

J-オイルミルズレポート2024を読んで

  • 特定非営利活動法人 循環型社会研究会 理事
    山口民雄 循環型社会研究会:
    次世代に継承すべき自然生態系と調和した社会の在り方を地球的視点から考察し、地域における市民、事業者、行政の循環型社会形成に向けた取り組みの研究、支援、実践を行うことを目的とする市民団体。研究会内のサステナビリティワークショップで、報告書のあるべき姿を研究し、提言している。

企業情報の開示をめぐる動向が顕著です。国内では2023年3月期より有価証券報告書に「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄が新設されました。国際的にはISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が同年3月に「サステナビリティ全般に関する基準」などを公表し、これを受けて日本においても2024年3月に基準の草案が公開されました。また、金融審議会のワーキング・グループでは「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方」について議論されています。
法定開示における議論が先行しているように見えますが、従来以上に任意開示である統合報告書の役割分担が重要になってきていると考えます。将来情報の核となるビジネスモデルや価値創造プロセス、戦略などの情報の多くは統合報告書に委ねられることになるでしょう。そのため、統合報告書は情報を効果的に伝えるために創意工夫に基づく開示ができているか否かが問われてきます。
当社では意見交換会などで出された改善提案に対して真摯な対応をされており、当レポートに創意工夫して具体化されています。この基盤となっているのが編集方針にも一部紹介されている“基本コンセプト”の設定です。様々な開示要請のある今日、開示に際して“基本コンセプト”を明文化にすることは重要です。ここには「具体的な説明を通じてストーリー展開」「ステークホルダーの理解促進と対話につながることを意識」などが掲げられています。
基本コンセプトに則り、各コンテンツの冒頭に管掌するCxOや社外取締役、執行役員がメッセージを発信し、ストーリー展開に大きく寄与しています。メッセージの発信は任意媒体の優位性を発揮するもので、一人称として認識や決意を表明することによってステークホルダーの不安や疑念を払拭し信頼感を一段と高めます。
また、創意工夫の一つとして「PBR逆ツリー展開」というロジックツリーが記載されました。この展開図によって東証の要請する「PBR改善:資本コストや株価を意識した経営」への対応が分かり易くなりました。ロジックツリーは読者の理解促進に寄与するばかりではなく、発行社が問題点を把握し解決策を見出す契機にもなりますので、他の項目の作成にもトライしていただきたいと思います。
残念な点も指摘させていただきます。2023年版ではマテリアリティについて2頁を割き、特定したマテリアリティをプロセスとともに記載し、次のステップとして「サブマテリアリティの整理とゴールイメージ、KPIの設定」が示されました。しかし、それらの進捗は読み取れず、語彙(マテリアリティ)としての登場も社長メッセージ(P36)のみで、CxOのメッセージにも言及されていません。マテリアリティは「経営会議で決議後、取締役会への報告・承認」されていますので、CxOをはじめ、執行役員は率先してマテリアリティの進捗について言及する責任があります。
この間、マテリアリティは“企業が直面している主要な課題や機会を明らかにし、持続可能な成長戦略を明確にするなどコミュニケーションの質を高める上で重要な役割を担う”ことを確認してきました。ぜひ、前述の次のステップの早急な着手と次回での公表をお願いします。その際には以下の観点からの記載も期待します。
・マテリアリティを自分事とするための浸透施策。
・事業戦略、中期経営計画、長期の企業価値創造とのつながり。
・マテリアリティにおけるリスクと機会。

J-オイルミルズレポート