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2023年度統合報告書 第三者意見

統合報告書である本レポートは任意開示媒体であり、発行社の熱意でその質が大きく左右されます。2017年以降、当社の第三者意見を執筆していますが、毎年、そのプロセスで意見交換や改善提案を行っています。意見交換には社長をはじめ役員の方も出席され、また、改善案に対しては丁寧な「改善提案書へのご回答」をいただいています。このプロセスで象徴されるように、当社はレポートの質の継続的向上に強い熱意をもって取り組まれています。
今回のレポートもそうした熱意の賜物といえる出来上がりになっています。“復活と成長”の実現に向け「第六期中期経営計画」を見直した後の初のレポートであり、読者は見直しの必然性や新たな戦略に大きな関心を寄せていることでしょう。こうした期待に応えるように、CEOによって見直しの位置づけ、その背景、方向性が詳述されています。さらに、それらに肉付けするようにCOOが利益改善や事業拡大への取り組みを、CTOとSCM担当が構造改革の取り組みについてコミットメントしています。また、社外取締役の鼎談においては、本中期経営計画における企業価値向上に際しての諸課題を明確にし、その処方箋が提示されています。このように、「重要な転換期に発行するレポート」という認識を強く抱いて作成された、ということが伝わります。
継続的な改善点も多数あります。代表例はマテリアリティ特定プロセスの記載です。マテリアリティの特定とその報告は企業情報開示の核心であることから、その特定プロセスの適切性は重要な関心事です。GRIスタンダードには「マテリアルな項目の決定プロセスは、文書化するのが望ましい。これには、組織が採用した手法、下した決定、前提条件、主観的判断、分析した情報源、収集した根拠となる情報が含まれる」と記載されています。今回初めてマテリアリティに関する2018年以降の活動が開示され、見直しに向けた2023年の取り組み(特定のプロセス)が明らかになりました。これらによって適切なプロセスを経てマテリアリティが特定されていることが伝わります。さらに、マテリアリティに一層の共感を呼び寄せるには、項目の絞り込みやサブマテリアリティの整理において、より前提条件や主観的判断の論理を踏まえた具体的な選別経過の提示が必要と考えます。
中期経営計画によって企業価値向上の戦略が多々示されましたが、情報開示も重要な戦略の一つに位置付けるべきでしょう。積極的な情報開示をするか否かで企業価値の評価が変わる時代になっています。そのため、情報開示は外部要請に対するリアクティブなものではなく、投資家やステークホルダーに働きかけていくプロアクティブなものにしなければならないのではないでしょうか。その一つとして、企業価値向上に紐づくESG情報(正負ある)を積極的に開示すべきです。
ESG情報の中でも人的資本に関する情報への関心が高まっています。これは、人的資本が社会と企業のサステナビリティにとって中核的な要素であり、今や多くの投資家が人的資本に関して説明を求める声が大きくなり、同時に企業も「人財は、会社の中で最も重要な位置づけ」(江渕CHRO)との認識が一般的になったためと考えます。本レポートにおいても同様の認識のもとCEOとCHROのダイアログが掲載され、また、サステナビリティ委員会に「人的資本部会」が新設されました。これらは高く評価されますが、今後は「人的資本可視化指針」が示すように、人的資本への投資や取り組みが企業価値の向上にどのように紐づくか、ロジックや数値を示していただきたいと考えます。

  • 特定非営利活動法人 循環型社会研究会 理事
    山口民雄
  • 循環型社会研究会:
    次世代に継承すべき自然生態系と調和した社会の在り方を地球的視点から考察し、地域における市民、事業者、行政の循環型社会形成に向けた取り組みの研究、支援、実践を行うことを目的とする市民団体。研究会内のサステナビリティワークショップで、報告書のあるべき姿を研究し、提言している。

J-オイルミルズレポート