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食用に適さない植物の種子から作る国産SAFへの取り組み

―原料確保や使用拡大などSAF普及の大きな一歩を踏み出す―

食用に適さない植物の種子から生成した国産SAFを用いたフライトを沖縄で実施

J-オイルミルズは企業理念体系における目指すべき未来「Joy for Life® –食で未来によろこびを®–」を実現する手段として「おいしさ×健康×低負荷」を掲げ、その中の低負荷というキーワードから、新しい事業領域として持続可能な航空燃料であるSAF(サフ)の研究開発を進めています。

本事業は、2022年にNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の公募事業「バイオジェット燃料生産技術開発事業/実証を通じたサプライチェーンモデルの構築」の助成事業に採択されました。研究開発を進めていく中で食用に適さない植物 であるテリハボクとポンガミアの種子から国際品質規格であるASTM D7566 AnnexA2に適合したSAFの生成に成功するなど着実に成果を上げ、2025年3月に日本トランスオーシャン航空株式会社、太陽石油株式会社、NEDOとともに、沖縄県にて、国産SAFを用いたフライトを実施することができました。
今回は「なぜ、当社がSAFの研究開発をしているのか」や「国産SAFの現状」、「沖縄県でのフライドの様子」などを紹介します。

テリハポクおよびポンガミアの種子から生成したニートSAF
テリハポクおよび
ポンガミアの種子から
生成したニートSAF

SAF(サフ)とは?

持続可能な航空燃料(Sustainable Aviation Fuel/サステナブル エイヴィエーション フューエル)の略称。持続可能性の条件を満たした再生可能あるいは廃棄物を原料としたジェット燃料で、従来の化石燃料由来のジェット燃料と比較して温室効果ガスの排出量を低減することが可能。

ニートSAFとは?

100%再生可能あるいは廃棄物由来の原料をもとに製造されたジェット燃料。これに、従来の化石燃料由来のジェット燃料を混合した後、SAFとして使用されます。

カーボンニュートラル実現のために需要が高まるSAF

当社は2022年にNEDOの「バイオジェット燃料生産技術開発事業/実証を通じたサプライチェーンモデルの構築」の助成先として採択されたことから、国産SAFの研究開発を進めてきました。国産SAFの製造に目を向けると、国土交通省が2030年頃には172万kLのSAF需要を想定しています※1。現在、国内の研究開発で先行しているのが廃食油。廃食油とは、天ぷらなど調理に使用した後の使えなくなった油のことです。国内の廃食油は、食用油全体の消費量が約250万トンのうち燃料として再利用されているのはわずか13万トン(約14万kL)ほどで、目標とする172万kLには大きく不足しているのが実情です※2

このように廃食用油以外の原料確保が必要な中、「他の原料からSAFを製造できないか」と、いろいろな企業、研究者が開発に取り組んでいます。さらに今後は、世界的な需要拡大に対応するために、バイオマス資源の多様化も不可欠な状況になっています。

バイオマス資源とは?

食品廃棄物をはじめ、木材、稲わら、もみがら、生ゴミ、家畜の排泄物などの生物由来の有機性資源で再生可能な資源のこと。化石燃料(石油や石炭など)とは異なり、持続的に利用できるのが特徴です。

持続可能な未来のために食品メーカーのJ-オイルミルズができること

当社は、持続可能な未来のために気候変動への対応を重要な課題と位置づけ、2030年度までにCO2の排出量を2013年度対比で50%削減、2050年度までに排出ゼロの実現を目指す取り組みをしています。また、新しい事業領域としてSAFの可能性に着目。食品会社ということもあり、「食料と競合しない原料からSAFを作れないか」を検討してきました。

食料と競合しないことに重きを置いた背景には、オイルショックがあります。これまでオイルショックが起こると、エネルギー争奪戦へと発展し、物価の上昇を引き起こしてきました。食品も例外ではなく、大きな影響を受けてきました。そうした経験をふまえ、「食料と競合しないものを用いれば、食料価格に影響を与えることなく安定的にエネルギーの供給ができるのではないか」という考え方のもと、非食用原料に着目してきたのです。

そして、さまざまな文献に当たり、専門家や有識者の方々にお話を聞きながら調査、検討した結果、テリハボクとポンガミアの2つの植物に着目しました。これらは含有される成分や食味の特徴から食用には適しませんが、その種子は油分を3割〜5割程度含んでいます。これは菜種や大豆とほぼ同等です。当社では、食用油の製造により培ってきた搾油・精製の高い技術力でテリハボクとポンガミアに含まれる油を搾油し、不要な成分を取り除き、SAFの原料用の油を生成することができます。

J-オイルミルズの搾油精製技術がSAF製造に活用可能

また、農地ではない乾燥地や塩分の高い土地での栽培が可能という点でも、テリハボクとポンガミアは食料と競合しません。沖縄県では、主に街路樹のほか海岸沿いの防風林として植えられています。

テリハボク
テリハボク

テリハボクとは?

テリハボク科の常緑高木。生育適地は亜熱帯、熱帯地域で、その種子の油分は約40〜50%。ランプ燃料や化粧品(タマヌオイル)などで活用されています。農地ではなく、乾燥地や塩分が高い土地での栽培できるのが特徴。沖縄県では管理道路の街路樹として植えられているところもあります。

ポンガミア
ポンガミア

ポンガミアとは?

マメ科の常緑樹。生育適地は亜熱帯、熱帯地域で、その種子の油分は約30〜40%。現状は、殺虫剤や化粧品の原料として利用されます。乾燥地や塩分が高い土地での栽培が可能で、沖縄県では街路樹のほか防風林や防潮林として海岸沿いに植えられているところがあります。

テリハボク・ポンガミアのSAFへの活用可否の検証

今回実施したフライトに向けては、アカデミア(大学や公的研究機関などの学術界)や様々な組織の協力を得ながら、沖縄県の管理道路の街路樹から落下した種子を用いて搾油・精製を行い、その後ニートSAFへの変換を行い、航空燃料としての品質規格であるASTM D7566規格への適合を確認しました。今後は、持続可能な環境品質の認証であるICAO CORSIA認証の取得を目指していきたいと考えています。

ASTM(エー・エス・ティー・エム)D7566とは?

ASTMインターナショナルが定めた、SAFに対する航空燃料としての品質規格。

ICAO CORSIA(コルシア)認証とは?

ICAO(国際民間航空機関)が国際航空の温室効果ガスの排出削減を管理するために定めた認証制度。

114人の乗客乗員を乗せ、那覇空港から宮古島へと飛び立つ

2022年よりNEDOの「バイオジェット燃料生産技術開発事業/実証を通じたサプライチェーンモデルの構築」の助成先として採択していただいたことから研究開発を進め、2025年3月25日、ついに実機でのフライトを実現することができました。

フライト当日のスケジュール

13:00〜
メディア向け説明会
14:30〜15:00
駐機場でSAFを給油
15:35
JTA565便が宮古島に向けて出発

フライトを実現させた4社/各社の役割

フライトを実現させた4社/各社の役割

●NEDO
J-オイルミルズの研究を助成

●株式会社J-オイルミルズ
沖縄県産のテリハボクとポンガミアの種子から搾油・精製した油脂を使ったフライト燃料のニートSAFを製造

●日本トランスオーシャン航空株式会社(以下JTA)
SAFを使用したフライトの運航を担当

●太陽石油株式会社
ニートSAFと既存のジェット燃料を混合させてSAFを製造。その品質の確認、配送の手配など供給を担当

フライト燃料を給油している様子
フライト燃料を給油している様子

JTAの特別デザイン機・ジンベエジェットに、国産SAFが給油される様子を特別に間近で見守ることができました。

搭乗者には、フライトを記念してJ-オイルミルズのJOYL「AJINOMOTOオリーブオイルエクストラバージン」300g SGPをプレゼント

搭乗者には、フライトを記念してJ-オイルミルズのJOYL「AJINOMOTOオリーブオイルエクストラバージン」300g SGPをプレゼント。そして青空のもと、那覇から宮古島へ約1時間の空の旅へと出発しました。

JTA565便に搭乗したJ-オイルミルズ社員の声

「搭乗ゲート前と機内で、沖縄県内路線初のSAF燃料が使われること、それは沖縄県内で採れた種子から製造されたこと、今後もサステナブルな燃料の使用を拡大していくというアナウンスが流れて感無量でした。実機飛行はあっという間でしたが貴重な体験をさせていただきました」

「これまで多くの方々にご協力いただき、テリハボクとポンガミアの収集からSAF製造まで無事に進めることができました。離陸した際には“今までの努力が実を結んだ”と感動しました。SAF普及に向けた大きな一歩である実機飛行に同乗できたことは非常に貴重な経験となりました」

「沖縄産の原料で作られたSAFでのフライトは、晴れ晴れとした天候に恵まれ、沖縄諸島の美しい緑と海を下に順調な飛行でした。改めて、SAFを通じて沖縄の自然保護にも貢献できることを嬉しく感じました。翼の中には、手塩にかけて製造したSAFが入っていると思うと感慨深かったです。このフライトを機に、SAFが世界に広がることを期待しています」

飛び立つ様子

フライト概要

実施日
2025年3月25日(火)
実施場所
那覇空港
実施便名
JTA565便(沖縄那覇〜宮古島、定刻15時35分発)
実施機材
ボーイング 737-800型機(165席)

地産地消のSAF普及でサステナブルな未来の航空業界を支えたい

テリハボクとポンガミアの混合油を使用したフライトは世界でも類をみない取り組みであり、新たな可能性を広げることができました。今後の最大の課題は原料の確保です。すでに使われている資源であれば、サプライチェーン、バリューチェーンが構築されていますが、今回のように1から作り上げていくものに関しては、土地の確保や生産者との連携も含めたバリューチェーンを構築しなければなりません。

今後の取り組み

また、ラボ実験レベルのものから、いかにスケールアップさせていくかという課題もあります。テリハボクもポンガミアも文献がかなり少なく、最適な栽培条件や目指すべき収量など、検証すべき点がたくさんあります。そのため、栽培方法の確立や原料供給量拡大に向け、当社では地元沖縄県の生産者やアカデミアの力を借りて、2025年3月から小規模な試験植樹を開始しました。コスト低減を実践しつつ、小規模な試験から土地の所有者と連携して検証を進めながら、これらにどれほどのポテンシャルがあるかを見極めていきます。

このような協力体制の構築や沖縄県の行政などとの連携を検討しながら、引き続きテリハボクやポンガミア由来のSAF実用化を推し進めていきます。今回の実機でのフライトを機に、この取り組みを多くの方に認知してもらうことが最初の一歩だと捉えています。これを足がかりとして、今後、この活動を加速していきたいと考えています。

※1 2023年2月に閣議決定された、「GX実現に向けた基本方針」においてSAFの活用が取り組みの一つに挙げられ、それを受けて試算されたもの
参考:https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shigen_nenryo/nenryo_seisaku/pdf/016_04_00.pdf
※2 全国油脂事業協同組合連合会「UCオイルのリサイクルの流れ図(令和3年度版)」(令和4年4月)を基にNEDOにて試算しています。
https://zenyuren.or.jp/document/220407_ucorecycleflow_r3.pdf