CFOメッセージ
成長戦略、構造改革、財務戦略の三つにバランスよく取り組むことで、当社グループの企業価値向上を実現していきます。
キャッシュアロケーションの方針と持続的な成長に向けた取り組み

内田 敬之
当社グループは、2026年度を最終年度とする第六期中期経営計画(以下 第六期中計)の完遂に向けて取り組んでいます。第六期中計は、当初は2021年度から2024年度までの計画でした。しかし、原料価格高騰や円安進行により調達コストが大幅に上昇し、物流コストやユーティリティコストが高止まりするなど非常に厳しい事業環境になったことを受けて2022年に見直しを行いました。現行の第六期中計は成長戦略、構造改革、財務戦略の三つが大きな柱であり、これらにバランス良く取り組むことで数値目標の達成だけではなく、その先を見据えた展開につなげていきたいと考えています。
第六期中計期間中のキャッシュアロケーションでは、キャッシュインサイドの営業キャッシュ・フローを180億円と計画しています。これに対して、2023年度の営業キャッシュ・フローは225億円と大きく好転しています。原料である大豆や菜種価格の軟化による恩恵を受けた面もありますが、2021年度や2022年度に業績で苦しんだ経験を下に、販売価格と原料価格の差であるスプレッドをしっかりと確保する経営管理の徹底による成果でもあります。具体的には、業績の見込みをこれまでよりも早いタイミングで毎月確認し、十分なスプレッドがとれていない商品については営業のアクションプランに落とし込むようにしました。適正な価格や利益水準を全体でしっかりと確保するために、きめ細かく対応する体制を2023年度に確立することができたと考えています。
次に外部資金調達についてです。基本的なスタンスは現在の格付けを維持できる範囲としており、前回の統合報告書でお伝えした方針から変更していません。D/Eレシオは0.5倍を前提として、当社の企業価値向上に大きく貢献する有望な新規案件があれば0.7倍を上限に投資をするという内容です。当然ですが、ただ単にD/Eレシオを0.5倍にすればよい、0.7倍にすればよいというわけではありません。目先の議論だけにとどまらずに、どのような会社を目指し、どのように規模を拡大させていくのかという目線でプランを策定していくことが重要だと思っています。営業キャッシュ・フローが想定よりも早いタイミングで良化してきたことで、M&Aを含めて成長投資の可能レンジが拡大してきたと捉えています。
キャッシュアウトサイドの成長投資については、大きく二つの軸を考えています。一つ目は当社独自の強みである「おいしさデザイン®」を強化する投資です。お客さまのニーズをあらゆるシーンで再現するために、おいしさを「味・香り・食感」などの要素に分解し、油脂やスターチなどの素材と技術を組み合わせるソリューション力を一段と高めます。また、そこから新たな商品群や商品ジャンルを生み出していくための投資もしていきます。二つ目は市場の拡大に向けた投資です。海外、特にASEANや北米をターゲットとした事業展開に資金を投入していきます。国内市場を中心としたビジネスのみでは将来的に厳しくなると想定しているため、海外市場の開拓は必要不可欠です。第六期中計の成長戦略では海外事業展開の加速を掲げ、2026年度には営業利益に占める海外構成比7%を目指しています。結果が出るまでには時間がかかると思いますが、積極的に取り組んでいきます。M&Aについては業容の拡充や市場の拡大に向けてやるべきことの方向性と足掛かりの議論が進んでいます。特性上、外部からは分かりづらいと思いますが、国内外で検討を行っています。
2026年度の営業利益目標を110億円と掲げています。国内市場の大きな成長が見込めないことやコモディティー化した油脂が主力事業であることを考えると、現在の延長線上では達成が難しいと考えています。先ほど申し上げた海外事業の拡大に加えて、既存事業の収益力強化や抜本的な構造改革に取り組むことも必要です。相対的に間接部門が重たくなってきているため、そういった部分の見直しや工場稼働率を高めることで筋肉質な体制にしていくことも同時並行で進めていきます。あくまでも、2026年度の営業利益110億円は通過点であり、将来に向けた種まきもしながら達成することで、その先を見据えた企業価値の向上を図っていくというスタンスです。
PBR1倍に向けた取り組み
当社の現状のPBRについては決して満足できる水準ではありません。さまざまな要因があると思いますが、足元の財務KPIを見てもまだまだ見劣りする数値があると認識しています。例えば2023年度のROEは7.0%に回復しましたが、受取配当金の増加による特殊要因も大きかったため、恒常的に同程度の水準を出せる体質にしていかなければならないと思っています。
そのためには、資産の効率化を進めていくことが必須です。事業ポートフォリオの組み替えなどを含めた資産効率化の推進、あるいは効率的に稼げているかという観点から事業を見直す必要があります。これまでの取り組みを通じて、棚卸資産の圧縮については成果が上がっています。他方、固定資産回転率は決して高くなく、キャッシュ・コンバージョン・サイクルも胸を張れる水準ではありません。いろいろなスキームを考えることによって、もっと効率化できるところがあると考えています。既存事業については具体的なアクションプランを作成し、愚直に取り組んでいきます。今までのやり方が必ず正しいということではなく、あるべき姿を常に考え、それに向かって健全な議論を通じてアプローチすることを意識しています。新規事業においても既存事業とのシナジーを考慮した上で、デューデリジェンスを介して資産効率が合格点かどうかという点でも判断していきます。
売上高純利益率については、2023年度で2.8%とまだまだ低い水準です。既存事業における適切なスプレッドの維持をベースに、さまざまなアプローチを考えています。まずは、高付加価値品の拡販です。私は汎用品であってもお客さまの要望に応えるソリューションを通じて高いマージンを頂けるのであれば、それは当社の付加価値だと考えています。お客さまからの顕在化したニーズだけではなく、潜在的なニーズを探し出し、それに対して当社の強みを展開することで付加価値を拡大させていきます。新規事業についても事業創出をサポートするような財務の仕組みを整備することで、成功する事業が生み出される確率を上げていきたいと思います。
当社では株主資本コストを6~7%と認識しています。2023年度のROEは株主資本コストと同程度でしたが、残念ながら現段階での当社の実力とは言えません。第六期中計の目標である8.0%に向けて、粘り強く取り組んでいくことに加え、非連続な要素への対応を含めて常に資本コストを上回るROEを意識する必要があります。仮にその水準から大きく乖離する事業があれば、マネジメントとして決断をしないといけません。今回、賛否両論がある中で家庭用マーガリンからの撤退や植物性チーズの終売を判断したのもそのためです。数字はうそをつきません。6~7%のROEは最低限のレベルとして取り組んでいくことが必要だと思っています。
サステナビリティ投資について
サステナビリティに関する世界的な潮流を見ると、加速することはあっても後退することはないと思います。従って、企業としてしっかりと責務を果たしていく必要があります。必ずしもイコールではないかもしれませんが、サステナビリティを持続可能なビジネスモデルと捉えると、サステナビリティへの対応は将来のコスト削減や新たな収益機会の創出にもつながります。生活者のマインドも随分変わってきています。サステナビリティの推進を通じてお客さまからの支持が向上し、ブランド価値や競争優位性が高まることも期待できます。短期的な投資効果については曖昧になってしまう面がありますが、サステナビリティ投資は長期的な財務パフォーマンスの向上に必ず帰結すると考えています。
ステークホルダーの皆さまへ
第六期中計の数値目標を達成することによってPBR1倍の実現、あるいはその先の世界へ行けるように私自身それから周りを鼓舞しながら取り組んでいきたいと思います。PBR1倍は単なる数値目標ではなく、企業としての成長が株式市場から信頼されているかどうかを測る一つの目安と捉えています。ただ、PBRが1倍になればよいということではなく、当社が本来目指していることができているかどうかという観点で取り組みを強化していきます。引き続きご支援をお願いいたします。