数々の物流課題への対応で大きな成果 ー J-オイルミルズの物流課題への取り組み
数々の物流課題への対応で大きな成果 ー J-オイルミルズの物流課題への取り組み
数々の物流課題への対応で大きな成果
ー J-オイルミルズの
物流課題への取り組み
2026年1月8日 食品産業新聞社 橋本祐生
数々の物流課題への対応で大きな成果、大手製油メーカー「物流統括管理者」に聞く
J-オイルミルズ畑谷一美執行役員SCM統括部長
調達物流に関して寄せられた300件のサプライヤーからの物流改善要望の大部分を解決。トラック・物流Gメン※1からの文書に真摯に対応することで新たな基準を盛り込み、ローリー配送※2はいわゆる「2時間ルール※3」の適用対象外となった。実務への理解向上を目的とした社内向けの「物流ハンドブック」、「外装表示ガイドライン」の作成や、社内外での会議や講座の主催を通しての「ロジスティクス人財」の育成―。製油メーカー大手のJ-オイルミルズは、数々の物流課題への対応で着実に成果を上げてきた。その中心となって取り組みを進めているのが、同社の「物流統括管理者」を務める畑谷一美執行役員SCM統括部長(以下畑谷執行役員)だ。これまでの物流課題の対応と今後の取り組みについて話を聞いた。
販売物流と調達物流を一括管理、物流会社からの改善要望を解消
社会課題となった「2024年物流問題」への対応として、物流効率化法(物効法)の改正法が2025年4月1日に施行され、全ての荷主・物流事業者に対し、物流効率化のために取り組むべき措置について努力義務となった。2026年4月からは強化され、特定事業者を対象に義務化される。定期報告を作成するのは、物流全体の持続可能な提供の確保に向けた業務全般を統括管理する役割を担う「物流統括管理者」で、J-オイルミルズでは、2025年12月の経営会議で畑谷執行役員を選出した。
畑谷執行役員は味の素から出向し、2021年にJ-オイルミルズのサプライチェーンコントロールセンター長に就任以降、同社の物流課題の解決に向けて積極的に取り組んできた。販売物流と調達物流の改善を一括して管理する体制を築き、調達物流を担うサプライヤーを対象に行ったアンケートで寄せられた300件の改善要望を2年がかりでほとんど解決した。国土交通省(以下国交省)のトラック・物流Gメンから届いた文書にも真摯に対応し、業界の商習慣を是正するチャレンジを行ってきた。社内向けの「物流ハンドブック」の作成や企業横断型の交流会に参加するなど、「ロジスティクス人財」の育成にも尽力している。
個社としての取り組みに加え、業務用商品の一斗缶を中心とした植物油業界固有の物流課題の解決には日清オイリオグループ株式会社と昭和産業株式会社の3社で発足させた「油脂物流未来推進会議(以下YBM会議)で取り組んでいく考えだ。植物油業界独自のローリー配送については日本植物油協会(日油協)や行政とも連携して議論を進めている。
畑谷執行役員によると、食品メーカーの物流部門では通常、自社商品の販売物流しか担っていないという。調達物流については、原料購入部門と生産部門である工場が発注を担っているためだ。調達物流と販売物流を一元的に見ることができる企業は少ないという。
そこでサステナビリティ委員会内に自身を分科会長とした「物流分科会」を組織し、発着主・着荷主双方の業務改善を目指した。「調達物流の改善に私が指示しても問題ない社内体制になっており、設備についても意見している」。例えば、手荷役を減らすために、パレットにラップを巻く機械の導入を促すことが可能な体制となった。
2023年12月に物効法の法律の枠組みが見えてきた際、販売物流においては納品先で長時間待機や荷役をさせられているといった報告が物流概会社から届いていたが、調達物流では課題が顕在化していなかったという。「サプライヤーの選定は原料部で、発注は工場が行う。サプライヤーは当社への配送を物流会社に委託しているので、ドライバーの意見が上がってこない」と語る畑谷執行役員。その理由を説明する。
ドライバーの声を聞くため、サステナビリティ委員会※4配下の物流分科会を通して、サプライヤーの窓口にアンケートを実施した。その結果、物流会社から同社に対し、リードタイムや待機時間、荷積み・荷下ろしなどについて300件の改善要望を寄せられたというが、「2年かけて2024年秋にほとんど解消した」と胸を張る。すでに2025年12月に第2回のアンケートも依頼済みで、現在回収している段階だという。
コンプライアンス順守を最優先、日本植物油協会を通じてローリー配送を2時間ルールの対象外に
一方、販売物流でも物流会社からの改善要望は多数寄せられており、「優先順位をつけて解決に取り組んでいる」と話す。最優先するのはコンプライアンスの順守だ。例えば、階段を上る必要のある納品は両手が塞がるため労働安全衛生法の安全配慮義務に抵触する危険作業になり得るという。「個社で取り組めるものは個社で行うが、業界全体のテーマになるものは、家庭用は味の素社等がSBM会議で取り組んでいるのでその動向を踏まえて取り組みを進めていく。業務用商品はYBM会議の3社で活動し、参画企業を広げつつ、日本植物油協会(以下日油協)で周知してもらい、改善に取り組んでいく。構造的課題を抱えるローリー物流については、行政に相談しながら取り組んでいく」と述べる。
日油協での活動では、ローリー物流についても働きかけた。「荷役や待機は2時間以内にせよという行政のルールがあるが、ローリーは配送でサンプルを取って、その分析結果が出るまで時間を要する。冬は気温が低く、油が流れにくくなるため、2時間で完了させるのは難しい。業界団体を通じて国交省に働きかけた結果、ローリー物流はこのルールの対象外となり、より実態に即した運用を行うことができるようになった」と成果を語る。
トラック・物流Gメンの文書に真摯に対応、システム導入でミール出荷の商習慣を是正
物流会社やドライバーからの通報をもとに、是正指導を行う国交省のトラック・物流Gメンから文書も届いたが、「改善の良い機会であり、ネガティブには捉えていない。ご提起に対する当社の是正策や検討の経緯を運輸局に説明に行くと、一定の評価をいただく」と明かす。
指摘の一つに「ある工場で積み込み時にドライバーによるラップ巻きが行われている」というものがあった。事実確認を行うと、同社からラップ巻き指示はしていないことが分かった。元請け物流会社との契約書を確かめると、善管義務として「貨物の品質管理」が謳われ、業務委託範囲は「積み込み開始時から」となっていたという。複数の元請け物会社との協議では「ラップ巻きは止められるなら止めたい」や「受託業務を遂行するため、輸送時の貨物保護のための養生作業」と意見が分かれた。運輸局にその内容を報告した結果、物流会社が自主的にやる業務は荷役に該当しないという趣旨の一文が運輸局からの文書に追加されたという。「当社が真摯に対応した結果だと思っている」と強調する。
商習慣是正でも成果を上げている。別の工場では「長時間待機が発生している」という指摘があった。同工場ではダンプカーでミールの出荷を行っている。飼料業界の商習慣では時間指定が行われないのが一般的で、お客様側の手配による引き取り物流※5も多い。引き取り物流ではトラック(ドライバー)とJ-オイルミルズには契約上直接の接点はない。そのため、工場の開門前にトラックが並ぶ状況が発生していた。これを解消するため、トラック予約システムの導入に合わせて、車両サイズに合わせた積み込み時間の割り当てと時間指定を導入したという。自社の物流会社に加え、取引先を通じて複数回にわたり引き取り物流会社にも説明した。すると、半年後には1時間以上の待機は全体の4割から1割に減り、行政が目標とする待機1時間以内は6割から9割へ目立って改善したという。
教育ツールの「物流ハンドブック」作成、SCM全国会議の参加者は200人に
畑谷執行役員は「私が来た時のロジスティクス部は、部門最適を優先していた。物流持続性や部門連係の発想はあまりなく、他部門への情報発信も少なかった。物流実務への理解も十分でなかった」と振り返る。まずは実務理解を図るため、社内教育ツールとして物流業務を正しく理解・共通化するための教育資料である「物流ハンドブック」を作成した。従業員の理解が深まりお客様への説明力向上にも繋がったたことで、お取引き先での納品リードタイム延長にも寄与することができたという。腹落ちして説明できることが大事という考えから、商品の外箱「外装」に表示すべき情報や配置ルールを定め、物流現場での作業をしやすくするための社内基準である「外装表示ガイドライン」も自社化した。
物流環境についての認識とベクトル合わせと社内サプライチェーン業務の円滑化を目的に、2020年から毎年開催して今年で第6回目となる「SCM全国会議」の参加者は200人以上に上る。SCM統括部の主催で、社長から営業、工場、同部の社員などが参加している。21年から物流を中心議題化しており、国交省による講演なども企画したこともある。「参加者への事後アンケートから一歩ずつ進んでいると実感できている」と手ごたえを得ている。
視野を広げて、他社との実務者交流会も行っている。目的はスキルアップ機会の提供だ。他社との交流により自社事業への理解が深まることで相対的な視点を持つ機会となり、社外からの客観的評価も得られるという。社外講師による「ロジスティクス講座」も開催しており「ロジスティクスにはセオリーがあるが、体験しないと理解できない。講師を招き、ロジスティクスの基礎、国際物流の基礎も習った。視野を広げる人財教育になる」と意義を語る。SCM職場における目指すべき人財像を「ロジスティクス人財」と定義し、育成に注力している。
※1 国交省が設置した、トラック運送分野における「不適切な取引・商習慣」を監視・是正する専門担当者(チーム)の通称
※2 大型のタンクローリー車を使って、液体の油脂を容器に詰めることなくそのまま納入先のタンクへ直接届ける配送方法
※3 トラックドライバーの荷待ち時間・荷役作業時間を「原則2時間以内」に抑えるよう、荷主に改善を求める行政ルールの通称
※4 J-オイルミルズ内におけるサステナビリティ(環境・社会・ガバナンス等)を経営と事業活動に組み込み、全社横断で議論・意思決定を行うための委員会
※5 商品を売り手が届けるのではなく、買い手が自ら手配したトラックで工場や倉庫まで商品を取りに来る物流形態