CEOメッセージ

「Joy for Life® -食で未来によろこびを®-」の実現に向け、
中長期的な成長を実現することが私の使命です。
社長就任の想いと決意
2025年4月1日をもって社長執行役員 CEOに就任し、6月25日に代表取締役となりました春山です。私の使命は、会長の佐藤が築き上げた盤石な経営基盤を受け継ぎ、中長期的な成長を実現することです。当社の200年に迫る歴史の中で、これまでにも数々の苦難を乗り越え、さまざまな難題を解決してきた先人の方々のことを考えると、私を含めた新しい世代へ受け継がれたバトンの重大さや責任の重さに、身が引き締まる想いです。それと同時に、私たちの目指すべき未来「Joy for Life® -食で未来によろこびを®-」の実現に向け、外部環境の変化をチャンスと捉え、事業変革を通じた新たな事業領域の開拓により、力強く成長できる企業となるべく、全力を尽くしていきたいとの想いを強く抱いています。
まず、私のバックグラウンドや大事にしている考え方について、ご紹介させていただきます。私は、ライフサイエンスの会社で社会人としてのキャリアをスタートしました。当初は工場勤務でした。これは私自身が希望したもので、生産企画部門にて営業担当や工場のオペレーターと日々の生産に関する調整や原価計算業務に7年間にわたり従事しました。その後は経営企画などのコーポレート部門を中心に、さまざまなプロジェクトのリーダーを経験しましたが、自分なりのリーダーシップスタイルを確立したのは買収した米国企業にCFOとして赴任した時です。当初は、日本企業から来たマネジメントということで、冷ややかな対応で社内の雰囲気も重く、非常に苦しかった記憶があります。そのような中でも、当然ながらマネジメントとしてのミッションを果たさなければならないことから、現地スタッフと買収後の経営計画の策定と実行について議論を重ねていきました。そこで気付いたのは、個々の分野でスタッフの専門性が非常に高いことでした。私は、各スタッフとの対話を通じて、スタッフの専門性をうまく活かすことで会社としての目標をどのように達成していけるのかを考えながら、個々の目標設定に落とし込んでいきました。そうした取り組みを進め、いわゆるquick win(小さな成功体験)を積み重ねていくにつれて、徐々に社内の雰囲気にも変化が起こり、一丸となって円滑に仕事を進めていくことができるようになりました。そうした経験を通じて、各メンバーの専門性を最大限に活かせるリーダーシップを持つことで、1+1を3や4にしていくことが自分のスタイルだと認識しました。「心を同じくして、共に力を合わせること」という意味を持つ「和衷協同」という言葉があります。これは私の座右の銘で、私が経営トップとして責任を果たしていく上で重要なキーワードになるものと考えています。
私は、企業経営には大きく4つの要素があると考えています。①経営トップ・執行役員を中心とした経営チームが従業員に対して、当社のビジョンを繰り返し語りかけ、従業員の共感を呼び、会社全体が一体化するためのコミュニケーションを図ること、②中長期的な経営方針・戦略を策定すること、③経営方針・経営戦略に沿った、各事業の戦略と戦術を策定し実行すること、④それを実現するための企業経営基盤を強化することです。私が財務担当として当社に入社したのは2022年です。入社以来、コーポレート部門を担当していたことから、社内の営業現場や生産現場との接点、社外のお取引先さまやお客さまとの接点が限定的であったことは事実であり、私の課題でもあります。そこで、社内においては、従業員に向けた説明・対話会を開催し、経営トップ・経営チームの考えを常に社内に発信すると同時に、従業員からの提案も受け、経営メンバーと従業員がお互いに切磋琢磨することで、①の要素である会社全体を一体化するコミュニケーションを図っています。また、対外的には、社長交代を公表した2025年2月以降、会長の佐藤と共にお取引先さま・お客さまの元にご挨拶にお伺いし、新しい体制についてご説明しています。その中で、お取引先さま・お客さまと非常に良好な関係を構築していることが当社の強みの一つだと改めて実感しました。良好な関係を基盤として、お取引先さま・お客さまと共に事業発展を実現できるよう、経営トップとして会社を牽引していきたいと思います。
2024年度の業績、成果

2024年度は減収増益となりましたが、営業利益は85.7億円と過去最高益を達成しました。また、第六期中期経営計画の最終目標に向けて、ROEをはじめとした各指標においても改善しています。一方で、PBRは0.63倍にとどまっており、企業価値として全く満足できる水準ではありません。早期に改善していけるよう、成長戦略の具現化とそれを支える経営基盤の強化を図り、さらなるROEやPERの向上を目指していきます。
当期は、原料価格変動などの外部環境の変化に応じ、適正価格での販売を徹底するとともに、業務用のお客さまが抱えるさまざまなニーズにお応えできるよう、油脂と食品素材を掛け合わせたソリューション営業を一層強化しました。その結果、高付加価値の長持ち油や調味・調理油をはじめ、食感やジューシー感などの「おいしさ」を演出するスターチの販売を通じて、販売重量の拡大を実現することができました。また、家庭用油脂については、環境負荷の低減やお客さまの使いやすさが特長である「スマートグリーンパック®」シリーズの拡販や商品のポートフォリオを充実させることで、マーケットシェアを伸ばしました。
構造改革については、国内の家庭用マーガリン事業からの撤退を決断・実行する一方、業務用マーガリン事業については、海外への生産移管により収益性の向上を図っています。さらに、原料の購入から商品の配送に至るバリューチェーン全体の効率化による棚卸資産の圧縮や、政策保有株式の売却などによる資産効率の改善により、ROICを高めることができました。
一方で、海外事業を含めた成長領域の育成スピードについては、まだ課題があると認識しており、来期以降はさらなる成長への取り組みを強化していきます。
J-オイルミルズの価値提供
冒頭でお話ししたように、当社には約200年という長い歴史があります。これは時代の移り変わりとともに変化していく価値観やニーズに対して、当社が提供する価値を進化させてきた実績の積み重ねだと思います。現在は、まさに「食」「おいしさ」「健康」に関する価値観が、大きく変化しています。食品業界を取り巻く事業環境は、中長期的に見ると、国内人口の減少に伴う需要減少、気候変動や急激な為替変動によるエネルギーや原料調達に関する継続性やコストのボラティリティ上昇リスクなど、厳しい状況が想定されます。一方で、サステナビリティ意識の向上や国内高齢者人口の増加、キッチンテックやフードテックの進展により、「食」に対する価値観やニーズにも変化があると考えており、新しい市場拡大の可能性という機会も想定されます。
このような今後想定される事業環境の変化に合わせ、当社はこれまで以上に強みである「おいしさデザイン®」を追求していく必要があります。必要に応じてM&Aを含む他社提携を通じた新たな競争力を獲得することにより、「食」の課題を解決するソリューション力をさらに高め、当社のビジョンである「おいしさ×健康×低負荷で人々と社会と環境へのよろこびを創出」することで、社会や環境、生活者への貢献を実現していきたいと考えています。
当社は2023年にマテリアリティの見直しを行い、大きく4つのテーマに再編成しました。本年より新たな経営体制となりましたので、事業ポートフォリオの高度化や海外展開の加速、人財育成をはじめとした経営基盤強化など、さらに重点的に取り組む必要があると判断した項目については、より深掘りをして新たなKPIを設定するなど、事業環境と戦略をマテリアリティに接続させて明確化するよう取り組みを進めています。
また、中長期的な成長と企業価値向上に向けてサステナビリティ経営の推進・強化という視点を加えることで、事業環境や社会の変化に迅速かつ確実に対応していきます。変化の激しい時代において、長期的な成長戦略が描けないことのリスクは以前より増しています。株主や投資家をはじめとしたステークホルダーの皆さまに、当社を持続可能な企業であると判断いただくためには、非財務情報が重要な鍵を握っていると認識しており、ESG評価の向上は極めて重要であると考えています。その中でも今年度は特に人的資本の取り組み推進に注力していきます。人的資本経営には、一般的に①人財育成、②健康経営・ウェルビーイング、③DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)があります。これらはイノベーションの創出を含めた持続的な成長のkey driverであり、各従業員の成長や働きがいの向上に加えて、組織としての総合力も上げるものと捉えています。
今後取り組んでいきたい事項の一つは、長期的かつ普遍的なビジョンから逆算して、今後5年や10年先の目指す姿を、具体的に解像度を上げて提示することです。そうすることで、当社の価値創造プロセスにおけるインプットの要素が具体化され、事業ポートフォリオの高度化や次世代技術、事業投資へのキャッシュアロケーションも社内外に説得力のあるストーリーを示すことができると思います。当社の価値創造プロセスの中心にあり、差別化できる強みは「おいしさデザイン®」を提供できることです。油脂の販売を通じた幅広い中食・外食のお客さまとの確固たる接点に加え、お客さまのさまざまな課題を解決する油脂と「TXdeSIGN®」(テクスデザイン)シリーズに代表される当社独自のスターチを組み合わせたソリューション提案は、ほぼ全ての加工食品を提案対象とすることができます。事業ポートフォリオの高度化には、これまでのソリューション提案での経験やノウハウに加え、プロの料理人の技術や経験から導き出されていた「おいしさ」を科学的側面から解明・理解することで、当社の持つ「おいしさデザイン®」をナレッジとしてデータベース化し組織知に昇華させ、「おいしさデザイン®」のソリューション提案をさらに強化していくことが重要です。お客さまの顕在化したニーズへの対応に加え、お客さま自身が気付いていない潜在的な課題に対しても、データベースを活かした独自の提案を当社起点で行うことで差別化を図りたいと考えています。さらに、「おいしさデザイン®」のナレッジを活用できる新たなビジネスモデルの構築についても検討を行っていきます。

成長戦略
今回、第六期中期経営計画を進行する中で、マネジメント体制の見直しを行いました。外部環境が大きく変化していく中、チームとして一緒に考え、対応していくことをコンセプトにフラットな組織構造としました。全体最適に向けた意思決定スピードを改善していくことが狙いです。また、新しい経営チームでは、各執行役員が単年度予算の達成に向けた取り組みに加え、成長戦略や企業風土改革をはじめとした中長期的な重要テーマの責任者もしくは参画者として取り組むような体制を構築し、各取り組みの結果を役員報酬と連動させるインセンティブも付加しています。これまで以上に、全社最適かつ中長期的な経営という視点を強化できると考えています。また、新たな経営チームでは「経営基盤の強化」に注力することを共通認識としています。経営資源のうち財務資本はもちろん、非財務資本(人的資本、自然資本、知的資本、製造資本、社会関係資本)も強化することで、中長期的な成長の実現を目指していきます。
特に人的資本については、今年度に取り組みを加速いたします。当社は、2023年度にサステナビリティ委員会傘下に「人的資本部会」を設置するとともに「人財ポリシー」を定め、人的資本経営に舵を切りました。これからの先の読めない時代においては、人財の育成や多様化推進と組織風土改革に注力することにより、変化に柔軟に対応できる組織力を構築しつつ、従業員の自己実現と当社企業価値向上の両立を目指すことが重要です。そのため、新たな経営チームの発足に合わせ、2025年4月1日付で、サステナビリティ委員会の人的資本部会を発展的に解消し、経営会議の諮問機関として「人財委員会」を設置しました。今後、中長期戦略を踏まえたあるべき人財ポートフォリオの姿を検討し、その実現に向けた人的資本経営を推進していきます。
経営基盤強化に向けた取り組みとして、dX※にも取り組んでいます。当社は昨年、マネジメントや事業責任者を中心とした推進体制を構築し、各担当役員がリーダーとなる4つの改革テーマ(業務改革、SCM/物流、営業・マーケティング、人財育成)を設定しました。当社が目指すdXは、単なる業務改善にとどまらず、事業、製品サービス、ビジネスモデルを含めた変革により「おいしさデザイン®」のデータベース化をはじめとした比較優位性を確立し、当社のビジョン・ミッションを実現することを目的としています。2025年度はその土台づくりとして、各テーマにおいてデジタル技術を活用した変革に取り組んでいきます。
※当社は単なる手段としてのデジタル化ではなく、本来の目的である「業務におけるトランスフォーメーション」を実現することを重視するため「X」に重きを置き「dX」と表記しています。
第六期中期経営計画の進捗については、現時点では既存事業の収益性の強化が順調に進展していると考えています。一方で、事業ポートフォリオの高度化や海外事業の推進については今後の重点課題と考えており、集中して取り組んでいきます。次世代技術・事業への投資については、2025年3月に記者会見を開いた「食用に適さない植物の種子から生成した国産SAFを用いたフライトがその一つですが、長期的なスパンでの取り組みであり、外部環境の変化を見ながら、継続してシーズ探索を行っていきたいと考えています。
重点課題の海外事業の推進に関しては、注力地域のASEANにある子会社J-OIL MIILLS (THAILAND) Co.,Ltd.において、新たに油脂とスターチを組み合わせたソリューション提案を行い、着実に実績を上げています。Premium Fats Sdn Bhdでもマーガリンやショートニングの販売を進めています。北米においては、大豆シート食品「まめのりさん®」やビタミンK2「menatto®」の輸出を中心に進めていますが、さらなる事業強化を図るため、現地企業との連携を開始し、現地に当社人員も配置いたしました。その連携の下、当社既存製品の販売拡大に加え、連携先企業の事業開発・拡大に貢献する中で、当社の新規油脂製品の開発・事業化などを推進していくWin-Winの関係を築いていきたいと思います。今後は事業ポートフォリオの高度化を進める中で海外事業においても「おいしさデザイン®」のコンセプトを展開し、さまざまな素材やサービスを通じてお客さまの課題を解決していくことで当社のポジショニングを確立していきたいと考えています。
ステークホルダーの皆さまへ
会長の佐藤のリーダーシップの下、業績の回復を果たし「復活」を成し遂げるとともに、既存事業における盤石な経営基盤を築くことができました。引き続き第六期中期経営計画の達成を目指すことに変わりはありませんが、一部成長戦略について当初想定からの変化もあるため、その部分を含め中長期的な「成長」の実現に向けてスピード感を持って取り組んでいきます。中長期的な成長を実現するために、事業変革をリードすることができる人財の育成と自律的に動く組織文化づくりに向け、必要な取り組みを進めていきます。
今後の当社の成長と持続可能な発展に向け、当面のマテリアリティに取り組み、社会の変化に迅速かつ確実に対応し、投資家の皆さまをはじめとしたステークホルダーにとって真に価値ある企業となることで強固な信頼関係を築いていきたいと考えています。
皆さまの変わらぬご支援を賜りますようお願い申し上げます。